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医薬品流通事情-日本とタイ 34

現段階でのNHS制度の評価。

先述したように、政府によれば、3つのターゲットがあるとされる。

1.全てのタイ人に対する医療保障を達成する。

  • To achieve Universal Coverage for every Thai

2.全てのタイ人に平等なサービスを提供する。

  • To offer health benefits with the same satndard

3.政策的、財政的、構造的に継続性を担保できるモデルとなる事業を行う。

  • To produce "model scheme" which will help coordinate and strengthen policy sustainability, financial sustainability and institutional sustinability


各目標について、コメントしていく。

1.全てのタイ人に対する医療保障を達成する。

統計を見る限りでは、この制度に加入する人数は増えおり、タイ人に対する医療機会は増大したといえる。
だが、想像を絶する病院の混乱を見る限り、病院への受療機会がちゃんと保障されたとは言い難い。
この制度は、政治的に唐突に導入された。そのため、財政、事務の執行といった制度の実務面はいわば泥縄的に作られたといってよい。
政治的に唐突という意味では、先ごろの定額給付金が記憶に新しい。日本人的精密さといえるが、実施者側の地方公共団体が「実務的に間に合わない」といったことを声高に主張する。日本の場合、当然のことだが、兎に角やっちゃえといった乱暴なことはあまりない。
タイでは全国民をカヴァーする医療保障制度を一夜にして作り、実施に移すという乱暴さがある。

乱暴。
もともと限られた医療資源という制約がある上に、限られた数の私的医療機関しかこの制度に参加しないということとなれば、公的医療機関に患者が殺到し、洪水と化してしまう。
言葉の上では、「保障する」といい、「権利」も与えながら、実際はそれと大きく異なる。
ただ、いわば未熟児状態で生まれたこの制度も遅々とした歩みながら、多少の進歩はある。
医療費の高いものは制度からはずさざるを得ないという苦渋の出発をし、高額な医療ほど家計を破綻させるものはなく、何故それらを外したのかという厳しい批判のあったものがカヴァーされ始めている。
腎透析、HIVがそれだ。HIVの導入に際しては、先述したように、条項はあるものの抜かせない刀のようなものだった強制実施権(特許を暫定的に無視)を発動し、廉価構造を作るというウルトラCまで発動した。
さりながら、高額医療ということになれば、他にも相当数の疾病がある。この制度がホントーにカタストロフを避けるという形で万全に機能するための道のりは遥かだ。


2.全てのタイ人に平等なサービスを提供する。

NHS法は最終的にはすべての医療費保障制度を一本化するとしている。
この条項に対しては、労働組合の指導者たちと公務員が反対した。
労働組合をカヴァーするのがSSS(Social Security Act)、公務員をカヴァーするのがCSMBS(Civil Servants Medical Benefits Scheme)。
両制度をNHSに統合してしまおうとするもの。
労働組合と公務員は猛烈に反対し、この条項は修正されることになっている(不思議なことに、修正の合意はあるらしいが、現実には修正されていない)。
反対理由は簡単で、現在の制度を特権的なものと捉え、この特権が剥奪されるのはイヤだということ。
政府側は、この問題にすぐ決着をつけようとせず、実務面から統合への道筋をつけようとしているようにみえる。
特に、健康診査といった分野ではこれら3制度を統合した形で実施し始めている。

タイで外国人(西欧人)ジャーナリストとの議論の中で、タイの医療費保障制度は、一方で負担(保険料)ありきの制度がありながら、同じサービスを何も負担せずに受けられるという怪奇なやり方をやっているということで意見が一致した。

タイの人たちの考え方では、次のような整理?になるらしい。
第1に、サービスの範囲は程度の差はあれ限られており、一定範囲を超えれば自腹ということに変わりはないではないか。
第2に、いずれにせよ、選択肢が増えるのはいいことではないか。
第3に、医師など医療従事者は、医療内容につき、煩わしい制限があることを嫌っている(だから、いずれにせよ、エクストラはいるのだ)。

これらは、日本語で言えば、「私の気持ちは分かってください」に近いものがある。
難しい交渉で(いろんな場面がありました)、結論はノーでも、どうか「私の気持ちだけは分かってください」といって場面を収めた上司をみて、心の底から感心したことがある。
どうも、アジア的な整理のようだ。
「兎に角、誠意をみせろ」といったこともこれの類でしょうな。

タイのNHSの支持者たちは、何もベストを求めているわけではない、この制度が実施されたのは進歩だという。
こうなると、制度の「評価」といった冷静な議論はどこかに飛んでいく。

昔お付き合いをした政治家は、「政治は理論ではない、感情だ。要は、好きか嫌いかということなのだ」と喝破された。アジアでは議論が感情に走ることが多い。

タイでは飛行場が占拠され、非常事態宣言が出されても、その実行者である軍や警察が国民感情を考慮して排除行動に出ない。こうなると、双方が法律、理論でなく、感情に支配されてしまっている。


3.制度的、財政的、構造的に継続性を担保できるモデルとなる事業を行う。

財政的な継続性。
これがなんとかなった(evidence-based)のは、2002年の制度開始時だけ。
これ以後は、NHS当局と財務省(Bureau of the Budget)とのネゴの結果が財政規模といってよい。
当然、実際の費用を下回る。
この面では、先行きが思いやられる。

先輩面していえば、どうか赤字国債に手をださないで。手を出せば、日本のようになりますよ。次世代への返すアテノない借金という結果になる。

構造的、政策的な継続性。
NHSは、政府を医療サービスの購入者と位置づけて始めた制度。
今のところ、それがどのように具体的に機能しているのか全くわからない。

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