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DPC 29

DPC対象病院となる病院の基準

この業務は、病棟業務として、嘗てはかなりの病院で看護師さんがやっていた。
病院薬剤師の幹部の方々に尋ねると、トクトクと「今ではほとんどの病院でミキシングをやっていますよ」と語られる。
驚きだ。

第1に、薬剤部が取り組む前は、誰がやっていたか。
2005年の日本公衆衛生雑誌(秋田大学石井グループ調査)によると(大学病院と300床以上の313病院が対象)、88%のナースが抗がん剤の準備を病棟で行い、職業性暴露の危険性についての知識を持たないナースが40%いる。
抗がん剤取扱い時の安全対策をとっているのが39%という。
抗がん剤のミキシングは、「調剤」に該たる。
何故、薬剤師のテリトリーでなかったのかが疑問。

第2に、日本病院薬剤師会では、「抗悪性腫瘍剤の院内取扱い指針」を定めている。
危険性の認識があるのなら、看護師さんの状態を放置するのはおかしい。厳しく言えば、薬剤の専門家としての職業意識に欠ける。

第3に、現在でも、安全キャビネットなしでこうした薬剤を取り扱っている病院が存在し、これを大問題として病院薬剤師会が取り上げていない。
例えば、調剤室の片隅(水道脇)でやっているといった現場の声をもっと知るべきだろう。
第4に、アメリカでは、こうした業務は薬剤部のテリトリーだが、こうした業務は薬剤助手が行う。単純業務は、薬剤助手が行い(薬剤助手に安全な環境を手配する義務は薬剤師にある)、薬剤師は患者と向き合う。抗がん剤のミキシング業務を始めたことを誇らしげに語るといったことはアメリカでは奇異の目を持って語られる。

診療録管理体制加算。
この加算は、過去5年間の診療録、過去3年間の手術記録、看護記録の全てが管理・保管されていなければ請求できない。
情報開示が強く求められる中、その基盤整備(事前準備)のためのものだ。診療行為別の出来高払いの場合、レセプト請求の中にある程度の医療情報が記載され、医療行為の正当性、情報が開示される仕組みだが、包括払いでは、別の形で情報をキチンと残す必要があるからだ。

標準レセ電算マスターの項。
レセプト(診療報酬請求書)の電算化(古いですね、せめて IT 化程度の表現を使ったらどうか)は、厚生労働省の長年の夢だ。
この担当をしていた頃、レセプトについては、今では信じられないようなことがあった。
紙主義のレセプトだと、膨大な量になる。
紙でのレセプト保存が義務付けられていた頃、例えば、日立健保のような大きな健康保険組合では、保存のため、体育館をいくつか潰した。
レセプトを電子データとして保管することを認めなければ、そのうち、日立のバレーボールチームは自社の体育館で練習できないといったことになりかねなかった。

「標準」、「マスター」といったこと。
これも、シャバでは意味がわからない議論だろう。
IT 化のためには、各医療機関でのレセプトが一定の標準で、IT 処理可能な形で提出される必要がある。
そんなの簡単でしょ、と思われるかも知れない。
これが難しい。
病院とコンピュータ企業の両方の都合で。

病院の都合。
よく言えば、カスタマイズがお好き。
診療報酬点数表は膨大なもの、と同時に治療行為などについて「解釈」が必要。
この結果、演算過程を独自のルールで設定してしまう。
さらに、疑えばキリがないが、特定の治療行為を行った場合、「書き忘れ」、「請求漏れ」のないように、薬剤、治療材料、検査、診療行為を自動的に書き込むといったことをやりたくなる。
現実の医療行為は、similar だが、same ではない。
また、支払基金の審査を逃れるため、いくつかのパターン化を行うようなことをすれば、レセプトソフトは限りなく複雑なものになってしまう。

コンピュータ企業の都合。
院内情報、特に、レセプト情報を IT 化することは請負企業にとって、かなりオイシイ話だ。
こうした業界の方々と話をすると、2年に1回の診療報酬改定は「徹夜仕事の連続」などと嘆きの声が上がる。カスタマイズで、より複雑になったソフトの書き直しは確かに容易な仕事ではない。
じゃあ、合理化しましょうよ、と提案すると、その反応は「奥歯にモノが」というもの。
ホンネのところ、あまりやりたくない。
何故だかわかりますか?
第1に、徹底的にカスタマイズすればするほど、他社に仕事を奪われる危険が減る。
究極の顧客囲い込みですな。
第2に、その裏返しとして、顧客(医療機関)が請負企業に依存するほかなくなる。
言い値の支払とまではいかないでしょうが、無駄な価格競争をしなくて済む。
どこかの業界に似たような臭いを感じませんか。
こうしたやり方は、巧妙な談合システムといえる。
こうした企業群は強力な「連絡会」組織を作り上げた。
(筆者の昔話なので現在はどうなっているのか詳らかではありません)

両者の都合で互換性のない診療報酬請求ソフトがどんどん増殖していく。

もっとも、役所サイドにも相当の対応の遅れがあったことも事実だ。
例えば、疾病コード、医薬品コードといったものの取扱いがモタモタしていたことも当事者としての反省をこめていっておかねばならない。

というわけで、伝家の宝刀、診療報酬による強制「標準レセマスターに対応したデータの提出」という文言が必要となる。

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