医薬品流通事情-日本とタイ 06
医薬品、特に医療用医薬品を語るとすれば、その国の医療制度、医療費保障制度を言わねばならない。
古代ローマのように、極論すれば、国防と道路以外は民活ということでもなければ、その国の経済社会の体力と比例した医療なり医療費保障制度しか持ち得ない。
それにしても、教育と医療は自己責任としながらも、それなりの文化、衛生水準を維持できた古代ローマの社会は、「小さな政府」という意味では近ごろの「近代」国家よりできがよいともいえる。
タイの体力。
タイ政府の公式文書では、常に東南アジア10カ国の中で第何位かということが触れられる。
例えば、国土の広さ。
「51.4万平方キロメートル。
これは、「東南アジアでは第3位の広さで、インドネシアとミヤンマーに次ぐ広さである」と記述される。
何故、東南アジア10カ国の中での比較が用いられるのか。
政府の公式文書でも、タイの新聞でもこういう表現が多く使われる。
スポーツの分野でも10カ国対抗が非常に大きな関心を集める。
例えば、サッカーの世界では、東南アジアサッカー選手権がある。
10カ国というのは、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム。
最近では、東ティモールがこれに加わった。
ちなみに、オーストラリアはユース大会に参加している。
タイはこの大会で3度優勝しており、「優勝チャンスあり」ということで、タイ国内ではこの関連の報道量も多い。
どうしてこのカテゴリーなのか。
タイの研究員などとも議論してみた。
まず、地理的な理由。
地図をご覧いただければおわかりいただけよう。
次に、これらの多くはかつてタイ王国の一部であったということ。
ミャンマー、マレーシア、ラオス、カンボジアといった国々はタイ王国の一部であったことがある。
これらの地域は、ヨーロッパの植民地獲得競争のターゲットとなり、イギリス、フランスに植民地として割譲されたという歴史がある。
タイ王国の視点からは、こうした国々を含む近隣の諸国の中でのみずからの位置というのが気になるということらしい。
別の考え方。
これらの諸国は、第二次大戦後、植民地支配の構造から脱出し、独立を獲得している。
最も遅いのは、フランスの支配、アメリカの影響力から脱出するのに多大の犠牲を払ったベトナム。
いずれにしても、近代化、工業化は第二次大戦後の出来事であり、相互比較の対象としやすいという事情がある。
工業化ということを例にとると、タイの人はよくシンガポールのことを引き合いに出す。
「シンガポールと比べて遅れをとっている」といった言い方をする。
現在の実際的な意味。
経済的には、FTA(Free Trade Agreement)が今日的な問題だ。
この地域でのFTA提唱国は、タイとシンガポール。
東南アジアでの経済統合を目指すものとされ、過去の経緯を考えるとタイ王国の経済的な復活といった色彩もあると思う。
FTAといっても、段階的なものであることはいうまでもない。
医薬品を例にとると、インドネシアはフリートレードとは程遠い高い関税障壁を設けている。
一方では経済的な共存共栄を目指しながら、国内産業の保護との板ばさみでマダラにしか進まない。
別の進み方。
東南アジア地域の中では、旅行するのにvisaがいらないという相互交流は既に始まっている。
さらには医療関係の相互利用も検討されているようだ。
クロスライセンスなどは十分考慮に値するらしい。
これについてタイからの研究員に尋ねると、「言葉の問題があります」とのこと。
東南アジア10カ国といっても、使用言語は全く異なる。
タイの王様は、近隣諸カ国を征服したが、言語の統一といったところまで踏み込まなかったようだ。