医薬品流通事情-日本とタイ 10
医療従事者。
日本でいえば、病院報告のような調査があり、その中に医師などの人数が掲げられている。
*正確には、”Public Health Resource Report” Bureau of Policy and Strategy, Ministry of Public Health (2004年)
日本の数字は、医師・歯科医師・薬剤師調査(平成16年(2004))を使う。
タイの病院に勤務している医師などは何人いるのか。
日本をcriteriaにするのもいかがかとは思うが、この分野でも日本との比較をします。
医師の絶対数でいうと2006年医師の総数は約26万人、そのうち、日本の病院従事医師は168,327人。
人口10万対の病院医師数。
タイは、約28人。
病院勤務ということに限ると、平成18年(2006年)の日本は約137人、国民皆保険開始時の1961年でも約60人。
タイの医療人は極度に忙しい。
タイ最古のタマサート病院で医師、薬剤師さんと面談し、実際の治療現場も案内していただいたが、患者で溢れかえっており、「疲弊」一歩手前といった印象を受けた。
こうしたことを背景に公的病院から医師をはじめとする医療人が私的病院に流出しているといったことも耳にした。
タイの公的病院は、そのオリジンが王の役人のためのものであり、役人の受療と一般人の受療とは区別されてきた。
現在は過渡期ともいえるが、公的病院の開放性をどう担保するかは大きな問題だといえる。
筆者の現場インタビューの印象では、例えば、軍関係の病院では本来の利用者である軍人とそれ以外の人とは受付窓口まで異なっていると思われた。
(明らかに軍人専用窓口だと思い、「この窓口は誰にも利用できるのか」と尋ねると、
「そうだ」という答が返ってくる。だが、視線を転じると、明らかに別の受付窓口がある。それについて尋ねると、言葉を濁す。)
薬剤師。
7,413人という数字は、病院勤務に限ったもの。
日本の病院薬剤師の数は、2006年約4万9千人。
絶対数は明らかに少ない。
これを医師対薬剤師という比率でみてみると、意外なことがわかる。
タイの場合、病院での医師対薬剤師は、18,916対7,413。
日本では、168,327対48,964。
よく見ると、タイが10対4であるのに対し、日本は10対3という比率。
数だけをみると、タイの方が薬剤師の職域が広いということになる。
しかも、タイの病院の薬剤部をみるとわかるが、テクニシャン(薬剤助手)もいて、病院での職場環境という観点からみると、タイの方が薬剤師の活躍の場があるのではないかと思える。
とはいえ、薬剤師の絶対量も足らない。
タイの薬剤師免許取得者は、2008年で22,733人。
日本の10分の1の規模。
人口が日本の約半分なので、人口10万対の比率は日本対タイ=5対1。
近ごろ、日本では薬科大学の「乱立」が問題になっている。
薬学部の全入学定員を合わせると、1万5000人になるのではないかともいわれている。
というふうに見ると、日本ではタイの全薬剤師に当たる数を毎年薬学部に入学させているということとなる。
タイの政府は、医療人の養成にようやく着手し始めたようだが、絶対数はいかにも少ない。
1995年 670人
2000年 954人
2008年 1,183人
1995年から2008年の薬剤師免許取得者の推移をみると、
と徐々に増えてはきている。
薬学部のある大学は、国立で11大学、私学で3。
その他、イギリスの大学と提携してイギリスで勉強してライセンスを得る途もあるようだ(少ないが)。
日本のように「乱立」でも困るが、こう少ないのもいかがなものか。
全薬剤師数が2万2千人で、病院に働く薬剤師が約7千人。
タイでも日本と同様、薬剤師資格を有しMRになる人も少なくない。
そのMRも基本的には、Multinational、日本風にいえば、「外資系」のそれになる。
外資系のMRは、タイではエリート的職業であるらしい。
こうした経験を踏まえ、医薬品輸入製造業などのビジネスを立ち上げる薬剤師さんは少なくない。
タイでの薬剤師さんの社会経済的な地位はかなり高い。
看護師。
なんといえばよいのだろうか。
タイにも准看護師問題があります。
タイの看護師の種類は、2種類。
4年教育のRegistered Nurseと2年教育のTechnical Nurse。
病院で働いている看護師さんは、4年教育で95,834人、2年教育で20,268人。
チュラロンコン大学の先生方と議論すると、2年教育は、「便法だった」ということらしい。看護師さんの絶対数をどうやって確保するかという観点から設けられらしい。
これらのtechnical nurse(2年生看護師)さんたちは、機会があれば4年教育を受け、up-gradeしようとしているらしい。
現在では、こうした養成学校の減少とあいまって、2年教育看護師さんの数は減少し続けている。
日本の准看護師問題は、主として診療所でのお手伝いさん的な看護師さんが必要といった観点で語られ、病院側は医師を含め廃止の方向で議論して欲しいと考えがちだが、診療所側は低賃金かつ小間使い的な看護師を求めるといった傾向からその廃止には極めて消極的だ。
こうした日本的事情と比べると、タイでは看護師は4年制に収斂していくということなので、状況は、すっきりしているといえる。
ただ、当教室のタイからの研究員によれば、タイでは診療所には看護師がいないらしい。
タイ的な事情としては、診療所で看護師を雇うとコストがかかるので医師が単独であらゆる処置をするということらしい。
この点について、研究員さんたちと議論をしたがどうにも筆者には看護師のアシストがない医師、診療風景といったものが受け入れられない。
来月、次期研究員の最終面接のためタイに行く際、診療所を訪問して実地に確かめたいと考えている。
ともあれ、タイでは4年、2年教育の看護師を合わせて11万6102人の看護師さんがいる。
日本の病院では、看護師618,406人、准看護師176,441人、合わせて794,847人が看護にあたっている。
タイと日本では人口規模が1対2。
日本を標準にすると、タイでは約40万人の看護師さんが必要。
高齢化の度合いなどの要素を加味するとしても、医療インフラ全般にいえることとはいえ、看護師さんの絶対量も足らないといえる。
目分量で恐縮だが、せめてあと10万人、現在の倍程度の看護師さんが必要ではなかろうか。
それでも、診療所などの看護師を合計すると、昨年日本の看護師総数は約130万人ということなので、看護師を必要とする職場という観点でいえば、タイでは極度に看護師が不足している。