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医薬品流通事情-日本とタイ 11

先述したように、タイではバンコクとバンコク以外とで全くといってよいほど事情が異なる(Bangkok and Up-countryという言い方をする)。

日本の政治では、「格差」という言葉が登場する。
あるいは、「国際的にみて日本は遅れている」といったこともよく指摘される。
意味するところは、日本国内には「格差」があってはならず、日本の制度は欧米水準からみて、「遅れている、不備である」といったことだと考えられる。
もうそろそろそういう論法はおやめになった方がいいのではなかろうか。
どこかに比べてどうだ、という議論は、ある意味、楽。
日本の社会経済的な資源をいかに配分するかというのは、欧米との比較論や格差を論じるだけではもう通用しない時代だと思う。
例えば、OECD諸国での共通の問題として医療費の高騰がある。
アリテイにいって、各国ともよい知恵がないので関係者が集まって知恵を出し合いましょうという段階になっている。
こうした場で、「欧米では」といった議論は無論ありえない。
変な言い方だが、国それぞれのオリジナリティーを持った議論をする必要がある。
欧米から学んでここまで来たということは確かだが、似たような水準に達した今、知恵の出し手として行動することが求められているのではなかろうか。

さて、タイの状況は、往年の日本の状況と似ている。
国際水準の議論はする必要がないだろう。
タイの国際とは、ASEAN領域での位置づけが最も意識されることは先述した。
そのため、タイでは「欧米では」という議論はあまり行われない。
ちなみに、筆者の役人時代、「欧米では」というフレーズを多用していると、「欧米出羽の守」という別称を奉ることとしていた。
タイでは「ASEANの守」がいらっしゃるかもしれない。

格差はあらゆる意味で凄まじい。
貧富の格差などいろいろなものがある。

ここでは医療インフラの地域格差を取り上げてみる。
医師の地域偏在。
タイの病院には、繰り返すが、2004年の調査で18,918人の医師がいる。
そのうち、6,526人がバンコクにいる。
バンコクの人口は約1,000万人だから、6分の1の人口のエリアに、3分の1の医師がいることになる。
バンコク地域では、医師一人当たりの人口が879人であるのに対し、例えば、遅れているとされる北部地域では、7,466人に医師一人。
壮絶な格差といってよい。
民間病院で働く医師は3,575人だが、そのうち1,614人がバンコクにいる。
民間病院部門では45%の医師がバンコクにいるということ。
後述するが、タイの公的病院での労働は医師にとって必ずしも快適なものでなく、待遇のよい民間部門に良医が流出しているといった事情もある。

日本にもこうした格差はあるが、これほど凄まじくない。
平成18年(2006年)の医師・歯科医師・薬剤師調査によれば、
人口10万人当りの医師数で最も多いのが京都府の272.9人。
これが最も少ないのは埼玉県で、135.5人。
全国平均だと、206.3人。

タイのデータと平仄をあわせると、京都が医師一人当たり366人の人口。
埼玉県は、738.5人。
全国平均だと、484.7人。

相変わらず余計なことをいえば、埼玉の700台の数字はバンコクの800台の数字と遜色ない。
単純にいえば、埼玉県の医師分布はバンコクなみであるということ。
ただ、筆者がかつて埼玉県に出向していた頃のことを思い返すと、埼玉県の患者は東京から放射状に伸びる鉄道、道路を使い、東京に受療することが多い。
特に、埼玉県南部(「16号線の内側」という表現をよく用いた)ではこの傾向が著しく、東京の大学病院などにいくことがむしろ通例であった。

ことのついでに、埼玉県にも医療計画があるが、その地域割りは病院の病床数の制限のためにあるといってよく、おのおのの地域でちゃんと受療できるのかという観点からみると、実態とかけ離れたものだ。
というのも、素直に患者の受療行動に合わせると、下手をすれば、「西部池袋線医療圏」、「東武東上線医療圏」、「京浜東北線医療圏」、「高崎線医療圏」、「東北線医療圏」などということになってしまう。

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