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医薬品流通事情-日本とタイ 16

次の出来事。

1985年にアメリカから特許法キチンと実施するべきであるという圧力がかかった。
事実上特許を無視して行われてきたタイの医薬品製造業も転換を余儀なくされる。
このアメリカの圧力は7年後、1992年に実を結び、特許権の20年保護(化学物質そのもの及び最終製品ともに)が実施される。

  • 1979年の特許法は、15年の保護期間という問題もさることながら、保護されるのは製造過程に係るものだけという異様なもので、化学物質や最終製品自体には保護が及んでいない。
  • そのため、新薬の発売と同じ年に「ジェネリック」が出るという奇怪な状況が生まれた。
  • タイのジェネリック企業が生きながらえていることの理由の一つは、この構造によるものといえる。

タイのジェネリックビジネスは、厳密にいえば、1992年の特許法の抜本改正でようやく成立した(それまでは、厳密な意味での「新薬」、「後発品」の区分はない)。

1986年、Safety Monitoring Programというよく言えば、ユニークな制度が実施された。
リクツは、新薬の場合、その安全性を確認するために、臨床データの集積が必要で新薬企業は臨床データを提出しなければならないというもの。
このデータの収集期間、新薬企業の独占的販売期間は通例2年、最大4年。
変なやり方だが、新薬の売り出しと同時のジェネリックという構造はここで消えた。

1990年、SSS : Social Security Scheme。

タイにも年号があります。
2010年は、タイ暦では2553B.E.となる。
B.E.とは、Buddhist Eraのことで、仏陀の入滅が開始年とされる。
タイの教育では、まず、この年号が用いられる。
政府の公式文書ではこの年号が用いられ、英語訳する場合は西暦に換算される。
タイの文書を読むと、SSSはB.E.2497年、西暦1957年に最初の草案が作られたといった記述のされ方をする。

日本でも戦前は、皇紀が用いられ、神武天皇即位の年とされる西暦紀元前660年が皇紀元年とされた。
この皇紀も1872年に、明治政府が「独断」で定めたものとされ、現在の歴史学の世界では「実証的」ではないとされる。

で、この1990年の「社会保障法」(直訳です)は、私企業の従業員を対象とする。
日本の健康保険法と同様の考え方。
日本の健康保険法は、「さしたる議論なく」成立してしまったという経緯を持つ。
この制度は、第二次大戦後、医療費保障制度が完備されるまで、官吏に対する恩給法体系とともに、「孤島のごとく」存在した。

タイのこのSSSという制度も30バーツ政策という未熟な皆保険制度が発足するまで、公務員の医療費保障制度とともにポツンと存在した。

制度の骨格は次のとおり。

1.民間企業の従業員を対象とする。
  ただし、被扶養者はその対象ではない。
2.費用負担は、従業員:事業主:政府=1:1:1。
  いわゆる保険料は、月額給与の5%。
  保険料総額は、事業主と政府のマッチングを合わせると、月額給与の15%。
3.2.の保険料は、医療費に充当するほか、短期、長期の投資を行い、SSSの基金         
  を充実させる。
4.医療機関には人頭払いされる(capitation)。
5.次のような例外的な支出方式もあわせ採用する。
(1)救急や事故の場合、出来高払い(fee-for-service)される。
(2)高額医療の場合、追加的に費用が支払われる。
(3)受診動向により、追加的な費用が医療機関に支払われる。

日本の健康保険法は、その成立時、工場法などの労働者保護立法の色彩が強調されたのに対し、タイの「健康保険法」は、その名のとおり、社会保障(医療費保障)をどうするかという観点から成立している。

医療サービスの供給側との関係は、保険者と医療機関の1対1の関係でなく、200を超える機関:主契約機関(main-contractor)との契約というもの。

契約機関がネットワークを組織し、ネットワーク内の各医療機関(sub-contractor)と契約を結ぶ。

2008年の状況は次のとおり。
主契約機関数=257(公的:153、私的:104)
医療機関数=2,530

被保険者である従業員は、どのネットワークを選んでもよい。
ネットワークの選択という市場主義的を活用しようとしたものだといえる。

この医療費保障制度の所管は、雇用福祉省(Labor and Social Ministry)。
日本でいえば、旧労働省が所管するという形。
医療費保障制度についての所管がバラバラというのがタイのやり方で、欧米や日本の行政方法とはかなり異なる。

研究員とも、「何故、そうなるのか」という議論をしてみたが、「各省庁がやりたいと思えば、そのように進む」ということのようだ。

別稿で触れたが、日本の食品行政でも、食品添加物は厚労省、農産物は農水省などという分立もある。
タイの制度は整合性という観点からみると、いかがなものかとは思うが、各所管官庁が切磋琢磨すれば、漫然と運営されないというメリットもあるのかもしれない。

タイの高齢化を考えると、高齢者医療という難題を今のような取り組みでなんとかするというのは、道遥かなりといわざるをえない。

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