医薬品流通事情-日本とタイ 20
1997年の経済危機、それに伴う大幅な税収減をうけて、さすがのタイの政府も公務員医療費保障制度の医療費抑制に取り組まざるを得なくなった。
タイの医療費抑制策。
1.National list of Essential Medicines (NLEM)(「必須医薬品リスト」とでも訳せばよいのでしょうか)以外の医薬品については、絶対的な必要がない限り、償還されない。
必須医薬品リスト以外の医薬品を使用する場合は、病院に設置された委員会の承認が必要とされた。
2.長期入院抑制策とでもいうのでしょうか。
入院医療費(おそらくホスピタルコスト部分)について、償還限度額が定められた。
60歳未満の場合、最初の4日間は600バーツ、5~9日の間は300バーツ。
60歳以上の場合、最初の6日間は600バーツ、7~13日の間は300バーツ。
*タイの人々は計算が苦手というべきか、この導入時の仕組みは、次のように変更された。
年齢に拘らず13日間、600バーツ。
3.公的病院での夕方以降診療については対象としない。
どうもこれもタテマエではないかと思われるフシがある。
わざわざ、こういう支払例外を明記するということは、実際にはかなりごった混ぜ的に請求されているのではないかという疑いがあるからだ。
- (注)公的病院での夕方以降診療
- こう書いてわかる人は殆どいないと思われる。
- まず、タイの公務員はアルバイト、日本の国家公務員法的にいうと「兼業」が認められている。
- 病院での兼業の実際をみてみようとしたら、丁寧に断られた。
- 次回、なんとかアプローチしてみようと思う。
- タイの日本大使館の後輩殿に再び迷惑をかけることになりそうだ。
で。
タイの病院では、勤務時間の後、各医師は“special evening clinic”として患者を診療することができる。
患者からいうと、人気と実力のある医師に診てもらえ、かつ、途方もない待ち時間ということも避けられる(後述するが、NHS導入以来、需要の爆発が起こり、公的医療機関にいくと、明治神宮の初詣を想起させるほどの混雑)。
実際にインタビューしたわけでなく、仄聞になるが、概略、次のような仕組みだと思われる。
医師:
- 患者からは適切な診療費を徴収する。
- タイの制度は基本的に償還制なので、患者は一旦医療費を支払う。
- この費用をどのように賄う(私的、公的保険への請求)かは、患者の考えることであって、医師は心配しない。
- 徴収基準額、アリテイに言って、「相場」はどうなのかは詳らかでない。
病院:
- 医師にその施設を利用させる。
- 基本的に施設使用料的なものを医師から徴収する(らしい)。
- この兼業医師に関し、病院の実務機能は昼間と同じように働く。
- ということは、兼業医師に関われば、同時に病院職員も兼業するということとなる。
看護師など:
- 昼間と同様、医師の指示で働く。病院職員同様、彼らも兼業となる。彼らが誰からアルバイト料をもらうのか、しつこく尋ねたが、なかなか壁は厚い。
- タイでは、「公務員の給料は安いのだから」と公然と語られ(大手民間企業の3~5割)、「公務員は別の収入があってよい」という論理になる。
- 自助努力といえばそのとおり。
- 日本では、国家公務員法の兼業禁止をはじめ、殆どの企業では職務専念義務という観点から、本業以外のアルバイトを認めていない。
4.私的医療機関での受療は制限される。
- 公的病院では青天井だが、私的病院での受療はかなり制限される。
- 私的医療機関の受療は、
- (1)”life-threatening case”(生命への切迫した危機とでもいうのでしょうか。)に限られ、かつ、
- (2)入院のケース
- という制限がある。
- この場合の費用の償還は、所要医療費の半分、1件につき、3000バーツまでという上限額が設けられている。
どうでしょうか。
色々参考になります。
特に、1.の必須医薬品リストと病院内の委員会承認。
日本でもやってみてはどうかと思います。
必須医薬品リストは日本でも必要だと考えます。
こういうふうなことを言い出せば、me-tooメーカーから強烈な反対論が出そうです。
喧嘩をふっかけるようで恐縮だが、自ら製造する医薬品が必須であると胸を張っていえるメーカーがいくつあるだろうか。
戦いの構造は、いつも来た道で、メーカーMRが「先生」に働きかけて、「必須リストなるものは診療の自由を妨げるものです」という口上から始まる。
この際、厚労省も真正面からこうした戦いに挑んでみてはどうでしょうか。
役人を辞めると、組織から離れた年数に比例して、勝手なことをほざくという通説がある。
筆者もその例外ではない。