医薬品流通事情-日本とタイ 23
公務員医療については、2000年をこえてもコストコントロール試みがなされている。
この医療費を扱うに際し、2つ大きな問題があるといわれている。
1つはITシステム。
基本的には、依然としてpaper-based(書類主義)。
近年、IT化が進んできているといわれるが、実態はそんなにきれいではないようだ。
紙主義の欠点は、殆ど分析ができないということ。
いくら数字を並べてもsort-outしなければゴミの山。
日本の場合も近年までIT化が進まず、紙主義でやってきた。
日本の場合、医療費の分析などは、一定の調査を前提として行われている。
タイは紙主義であったことに加えて、適切な調査がなされていないという問題もある。
2つ目の問題は、出来高払い(fee-for-service)。
タイの政府の報告書でも、fee-for-serviceではopen-endであり、コントロールできないといったことが述べられている。
医薬品の世界では、薬の出し放題といった状況にある。
数字をみて驚く。
外来の場合、医療費の70%が医薬品。
入院でも30%。
かつて日本の医療も4割~5割が医薬品費という異常な時代があった。
出来高払いの最大の欠点が医薬品使い放題ということ。
タイの医薬品市場では、欧米人向けの私的保険と公務員医療が金城湯池とされ、各企業はここを主戦場としてせっせと営業している。
タイでは、入院医療に関し、DRG(Diagnosis-Related Groups)を導入した。
これについては一定程度の効果があるといわれている。
総体としてみると、公務員医療のコントロールはできていない。
公務員医療費の物差しは、国民所得でなく、国家予算。
公務員医療費は、国家予算の伸びの2倍のテンポで増加している。このまま続け ば、予算編成自体が不可能になると思われる。
この公務員医療について研究員との議論をまとめると、次のようになる。
- 1.外来は出来高払いを継続しているため、過剰なサービスという実態が変わらない。青天井で請求できれば、過剰な投薬が行われ、患者サイドも十分な知識がないため、それをうけとってしまう。
- タダで医療が受けられるということであれば、患者は少し具合が悪いとすぐ医療機関に行ってしまう。
- 2.NHS制度が実施され、医療機関は、この制度では人頭割の医療費しか期待できないため、NHSのサービスを維持するためにも、公務員医療から過剰な医療費を受け取ろうとする。
- 3.公務員医療は、予防より、処置に傾かざるを得ない構造。
- 予防的な診療行為より、お金になる処置、投薬に走るという傾向。
- 4.公務員医療も高齢化し、45%以上が60歳以上の者という構造。
- こうした年齢層が若年層の医療費を食ってしまっている。
- 5.公務員層の大部分は、バンコクをはじめとする都市部に在住している。患者行動として、プライマリーケアといったことではなく、直接重装備の大病院に行ってしまう傾向がある。結果として医療資源の無駄遣いになっている。
- 6.DRGが導入されたが、外来は出来高であるため、医療機関側は入院医療の対象者であったものを外来部門に移行させている。
- ある推計によると、2001年には病院の外来比率42%であったものが、2006年には59%に増加している。
- 外来部門へのシフトは取りも直さず、「薬漬け医療」。
かつて、日本でも薬漬け医療の問題があった。問題の構造、本質はタイの公務員医療とほぼ同じだと思う。
こうした公務員医療と人頭払い制度のユニヴァーサルカヴァレッジの制度が共存しているのがタイの医療だ。