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医薬品流通事情-日本とタイ 29

日本の制度との違い。
予防給付
日本の医療費保障制度では、個別の給付として予防的なものは対象とされない。
タイの制度はタテマエとしては、予防も給付内容になっている。
日本の場合、予防は健康診査として、例えば、市町村事業として行われたり、職場での定期健康診断といった形をとっている。
予防接種についても同様で、保険給付という形では行われない。
であるので、海外渡航の際の予防接種は自己負担で、受けたときは意外に高価なことに驚くことになる。
例えば、某クリニックの赴任のためのサイトをみると、
「豚インフルエンザ流行に伴い、メキシコを含む中米および北米方面に赴任される方向けに、タミフルの自費処方を行っております(8,400円/10錠1箱・1回分)」といったことになる。

Medical-feeといった漠然とした言い方も興味深い。
タイの伝統医療のフィーというのはどういう計算になるのか、本筋ではないものの、次回の調査で機会があれば、尋ねてみたい。

使用医薬品に関しては、タイ国必須医薬品リストという形は、日本でも検討してみてはどうかと思う。
日本の薬価基準は、商品名主義であり、成分名主義ではない。
少なくとも、ジェネリックに関しては、必須医薬品リストで、かつ、成分名主義に改めると、薬価調査をうまく掻い潜ったかどうかで、同じ成分でも値段が異なるといった珍妙なことは起こらないのではないか。

使用薬剤のところで、HIV関連の医薬品が含まれるとある。
これについては、特許無視という国際問題にいたった経緯がある。
HNSでHIVを対象とするということは、フツーに考えると、高価なHIV医薬品の使用が可能ということになる。
HNSの財政で、それが可能か。
答は、ノー。
どうしたのか。
タイ政府の発表。
「タイ政府は、HIV治療を必要とする、推定50万人の患者に医療を提供する必要がある。しかし、高価な治療薬を輸入するために、多額の資金を拠出することは困難である。そのため、特許で保護された、高価なブランドの抗HIV薬を輸入するのでなく、安価な治療薬を輸入もしくは自国内製造するために、強制実施権の発動を行う」

* 強制実施権
TRIPS(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)
特許についてのタイのこれまでの経緯は、前述したが、先進国対途上国で激しい対立のあった特許の扱いについて、最終合意をみたものがTRIPS。
その中、伝家の宝刀、あるいは緊急避難として設けられたのが、特許の一時的無視が可能な強制実施権。
基本的には使わせないというアメリカの考え方があり、筆者の知る限りではこれの正面突破はタイだけ。

発動は、2008年6月。
政府の発表をそのまま書くと、「今回の強制実施権発動によって、総額2,100万タイバーツになる「カレトラ」kaletraのジェネリック薬が2月に全国の国立病院に配布されるようになり、―――――政府の普遍的保健・ケア計画universal healthcare schemeの下で第2世代のエイズ治療薬を必要としている患者はーー薬を手に入れることができるようになるだろう。」

国際法上違法ではないといっても、multi-nationalの製薬企業にとって、愉快なことではない。
当時、タイのこうした企業にインタビューしたが(あの頃は十分な基礎知識がなく、今から思うと質問したいことが山のようにある)、「軍事政権の担当局長は、共産主義的な思想の持ち主ではないか」などという会話が交わされていた。

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