医薬品流通事情-日本とタイ 30
分娩。
日本の制度では、医療給付の内容ではない。
理由は、出産、分娩は疾病ではなく、保険「事故」にはあたらないから、というもの。
出産に関しては、産婆、助産婦といった日本的なものがあり、一方で、西欧医学の分娩術というものがあり、今でも続く健康保険の立案者は、出産分娩の取扱いに苦慮したに違いない。
少し考えてみるとおわかりいただけると思うが、産科医によるものと産婆によるものとでどのような診療報酬上の評価をすればよいのか、真剣に考えると眠れない。
部屋及び食事代。
日本の場合、この2つのほかにリネンサービスが基本的にはセット。
日本で入院すると、病院の寝具はお仕着せ。
タイの場合、シーツの類は病院が用意しているようにみえるが、パジャマの類は自弁だったような気がする。
部屋代の中にどのような費目が入っているか定かではない。
タイのように大上段に、列記した方が分かりやすいともいえることが、給付外の列記。
不妊治療。
これを保険給付の対象とするかどうかは、日本では診療報酬点数表に掲載されるか否かが問題。
現在の整理では、通常の治療については保険診療の対象となるが、人工授精や対外受精といったこと(「高度生殖医療」というらしい。)は対象となっていない。
こうした高度治療は、自由診療であるため、医療機関ごとに費用が千差万別。
高額な場合には、1000万円を超えるともいわれている。
日本も少子化で、こうした高額な不妊治療であっても、政府は助成事業を用意している。
平成21年度の雇用均等・児童家庭局の予算では46億円がこの助成事業に当てられている。
タイの制度は不妊治療は全く対象にしていないが、日本では少子化の影響もあり、国家社会の関わり方の問題として制度的な対応をしているといってよい。
性転換。
わざわざ書くのだろうか。
タイからの研究員によると、タイではゲイが多いとのこと。
日本の場合、性転換を保険給付の対象にするかどうか議論しましょうというだけで、「アンタ何考えてんの」的な目でみられること請け合い。
タイの場合、性転換が社会的にseriousな問題となっているともいえる。
美容整形。
日本でも保険給付の対象ではありません。
臓器移植。
NHSでは、対象ではない。
日本の場合、2004年生体肝移植が保険適用となり、2006年には、心臓、肺、肝臓、膵臓の4臓器の脳死移植が適用対象となった。
もっとも、日本の場合、臓器移植そのものは直接保険適用とならないが、高度専心医療といった制度があり、それ以外の入院費、検査費などは保険給付の対象だった。
ちなみに、心臓の脳死移植手術の診療報酬上の値段は、104万1000円。
この他に、検査などで4~500万円程度が必要。
というわけで、心臓移植を行った場合、医療保険では、総額5~600万円が請求され、患者負担がそのうち3割なので、患者サイドは200万円程度を窓口負担として支払わなければならない。
ただ、高額療養費制度というものがあり、200万円といっても、そのうち9割程度は償還され、実際の負担額は10~20万円程度となる。
日本の仕組みは、どのような給付範囲とするかは、診療報酬点数表に掲載されるかどうかということで決定される。
何故かといえば、費用の負担者(事業主、従業員、住民、国、地方公共団体)と診療側が中医協の場で話し合い、費用負担と医療上の要請を調整したうえで、保険適用とするかどうかを決める仕組みだからだ。
ある意味で民主的な手続きで、政府がエイやと決めてしまうより、柔軟な方法論だと思う。
特に、医療の世界は日進月歩、頑なな領域論ははっきり邪魔なもの。
日本と同様、社会保険の仕組みをとっているドイツでは、メガネが保険給付の対象となっている。合意さえすれば、こうしたものも対象になるということだ。
こういうふうにタイのNHSの支給範囲については、真の負担者である国民と診療側が協議する場がどこにもないという問題があると思う。
支給範囲を法定する、あるいは、政府のボードが決定するというのでは、医療の進歩、社会の成熟度にあわせた支給範囲という観点からいえば、柔軟性に欠けるものだと思う。