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医薬品流通事情-日本とタイ 39

実際のマーケットの状況を少しみてみる。
以下の資料は、2007年の第4四半期のIMSデータ(タイ製薬業協会で説明を受けたもので、資料の使用の許可を得ている)。

ims-data.jpg

タイでは、病院での医薬品使用が8割を超え、しかも極めて高い率で伸びている。
当然、製薬業界のマーケッティングは、病院マーケットに集中することになる(この点については後述)。  

上記の区分で、マーケットシェアの高い公衆衛生省所管病院と大学病院についてみてみる。

公衆衛生所管病院
公衆衛生局所管病院は、病床数でいえば、全病床数の65%を占める。
全国に広く分布しているが、バンコクにはほとんどなく、アップカントリー(バンコク以外の地域)にあるものが殆どだ。
バンコク以外の地域では病院といえば、公衆衛生局所管病院ということになる。

いくつか特徴をコメントする。

1.日本風にいえば、本省直轄。
医療費抑制策がキチンと適用される。
随意契約はなし。入札制が全面的に採用される。

2.病院のマネジメントは、予算の範囲内という制約を常に受ける。こういう形の場合、日本の旧国立病院がそうであったように、慢性的な赤字となる。
親方日の丸時代の国立病院は、経営努力というマネジメントサイドの努力が行われることはほとんどなかったといってよい。
お役人的思考というものの典型例であり、赤字が出ることは、いわば当然、足らないものは、本省に泣き付けばよいという行動パターン。
会計課というポジションにいたとき、年度途中、恒例の補正予算という場面に遭遇した。2000億円欲しいといわれた。赤字額がそうなので是非ということ。
民間企業のスタイルでいえば、あり得ない。足らないからくれという。
何故そうなったのか、どうすれば削減できるのかということはあまり問題にならない。担当者の意識としては、当時の大蔵省に予算要求するのと同じ要領で役所の会計課を説得して金を引き出すことがお仕事。
(会計、予算担当としては、厚生省の責任者としてOKという以上、大蔵省に対して、バカだと思われないようにチャントしたリクツ、理由が必要だ。兎に角、会計課を口説けばよいなどという、発想では困る、と思ったもの。)
タイの場合、おそらく、日本の旧国立病院的な素地があった上に、いきなりのNHS制度の導入があった。
タクシン政権誕生の稿でも述べたが、当時の30バーツ政策は農村部の得票獲得のためのスローガン、政策を実現させれば、こうした地域の需要が爆発することは誰でもわかる。大概の組織の需要予測は、過去からのトレンド主義。
タイの担当者が需要爆発に対応した予算を組んだとも思えない。さらに、経済危機後のタイ政府に潤沢な予算があったわけではない。

不足。

タイと日本の国立病院は、殆ど同じ手法、やり口で対応している。

お飛び越し。

落語で、殿様がやるものと同じではないが、ルールを真っ向から無視しているという点では似ていなくもない。

具体的には、年度越えの支払を行う。
その年の予算が足らなければ、その足らずまいは、翌年度の予算で入ってくるキャッシュで支払うという、会計事務所と税務署が聞けば、卒倒しかねないやり方。
特に、医薬品費支払はこのパターンで行われた。
日本の国立病院の場合、「未妥結」、「仮納入」なる珍妙な慣行がある。
未妥結というのは、実際に医薬品の納品を受けるが、値段交渉は妥結していない。「仮納入」は、医薬品の場合、消費してしまうので、言葉として論理矛盾そのものだが、仮の納入だから、支払は直ちに発生しないというもの。

なんでこんなことが起こるか。
答は簡単。
お飛び越しルール。

3.公衆衛生省所管病院での使用医薬品
これらの病院で用いられるのは、タイのジェネリック医薬品。先発品企業としてはあまり積極的に触りたいマーケットではない。

4.共同購入
比較的小さなまとまりで始まった公衆衛生局所管の病院での共同購入だが、エリアを拡大しながら、その規模を大きくしている。
共同購入の中心となる病院では、薬剤師が中心となって購入リストなどをとりまとめている。
日本の場合、医薬品の調達に関する薬剤師の関与はあまりにも低い。タイですら行われていることを日本でやることは殆どない。

別の稿でも触れたが、某大学病院で、医薬品購入の際の談合もどきの構造を是正しようとしたところ、最大の反対者は薬剤部であった。
反対理由は、「そんな難しいことをするのはイヤだし、失敗したときの責任をとりたくない」というもの。

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