医薬品流通事情-日本とタイ 42
数字を出してみよう。
古い資料(平成19年5月中医協資料)で恐縮だが、平成18年10月取引分の妥結率をみてみる。
ここでの妥結率の定義は、
この議論をするたびに思う。
商品を「販売」し、「納入」しながら、その価格がきまっていないという取引っていうのは一体何だろうか。
医薬品業界の方々は、これを不思議と思わず、こうした特殊なことをうまく取り扱うのが業界人としてのexpertiseだと誇らしげに語る傾向がある。
一種の凭れ合いの構造で、本来不要な業務を本質的なものとし、医薬品の流通自体に無用のコストをかけていることに全く関心がない。
アホというより、公費システム(強制徴収保険料、税金)で運用されている日本の医療費に対する明確なタカリだ。
不要な販売管理費をどう省くかが、他の業界では常識なのに、医薬品業界ではそれが全く逆。
ジェネリックの販売をMR中心主義でやろうなどという企業も同様だ。
ともあれ、数字。
みておわかりのとおり、購買力の高いところほど、粘るという傾向。
これなぞ、この業界の方々がいかに「長いものに巻かれる」ことがお好きかがわかる。
弱小購入者に対しては、居丈高で大病院にはヘイコラし、おもねるという凄まじい状況。
この中で、旧国立病院、大学病院は未妥結に伴う当然の金利を高価購入という形で支払っていた。
支払を猶予する代わりに、高価になるという原則を流通側もやっていた。
だが、民間病院は近隣の病院の妥結額をみて、最も低いものに固執したという。
これなぞ、正直者が損をするという典型的なもの。
同じ中医協の文書には、「「長期にわたる未妥結・仮納入」について、「原則として6ヶ月を超える場合」と定義」といった文章がある。
4月分の仮納入の妥結が翌年度などという状況では、この時点での6ヶ月は現実との関係で致し方ないとしても、外からみると極めて異常といわざるを得ない。
医薬品企業の担当者の方々は、裏にまわると、いかに薬価調査を回避するか、うまく立ち回れるかということを滔々とお述べになる。
この方々は、存在自体がcost-centerといってよいと思う。
医療費には本来「遊び」はないはずで、こうした商慣行ともいえない慣行も長くは続かない。販売管理費の圧縮こそが求められる時代。早く方向転換して欲しい。
5.3.の薬剤師が作ったスペックに合う企業の製品のみが選定対象になる。
当然のことながら、最安値が落札される。
落札総額は、病院の医薬品購入予算の範囲内であることはいうまでもない。
6.こうした過程で選定された企業は、病院側とopen-end契約を締結する。
Open-endとは、この場合、細目を後刻調整できるというもの。
この契約で、企業側は、価格と供給期間を決められる。おかしなことに、病院側には、使用量についての拘束がかけられない(前年実績に基づく推定使用量を提示しなければならないが)。
7.病院側への医薬品の納入は、通常、2,3週おき、1ヶ月ごとといった単位で行われる。それ以下の単位での納入は原則としてない。
病院の在庫原則は3ヶ月以内というもの。
タイの病院では、アタリマエの流通原則で医薬品の納入が行われている。勿論、血友病といった長期在庫になじまないものについての例外はあるようだが。
これに対し、日本の病院には、在庫原則、納入頻度の合理性が全く欠けている。
毎日どころか、一日3回、随時といったことが行われている。自動車のアセンブリーラインの例を出し、看板方式ですなどという説明をされる。
毎日、随時といったやり方は、流通コストを無意味に相当量押し上げているという事実に目がいかないのは何故だろうか。
大手調剤薬局チェーンの中には、「配送回数を削減してくれ、その代わり納入価格をコスト見合いで下げてくれ」といっても、医薬品卸の担当からは「随時配送が私の役目ですから、そのとおりやらせてくれ」という頓珍漢な返答が返ってくるという慨嘆をもらされる方が多い。
医薬品卸側と大手病院の薬剤部は、配送コストに関していうと、cost-centerだといってよい。
ある推計によれば、MR、MS、配送頻度の調整だけで、1~2兆円医薬品費を削減できるとある。遅かりしだが、真剣に検討すべき問題だと思う。
8.タイには、未妥結、仮納入の問題はないが、似たようなものはある。
というのは、納入後の資金回収が概ね6ヶ月以上という状況だからだ。
製薬企業側には納入遅れのペナルティーが課されるが、支払遅延にはいかなるペナルティーもない。これは、「病院は強し、業者は弱し」という日本とよく似た構造がある。
アメリカでの調査の折、どなたかが、未妥結、仮納入的な問題はないのかという質問をされた。病院でも、製薬企業でも、流通過程でも、質問自体の意味がわからないという顔をされた。
という意味では、医薬品は納入させるが金払いは遅れるというのは、アジア的といえないことはない(台湾ではアメリカ的商慣行で行われている)。
以上は、主として病院の視点に立った医薬品の調達。