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医薬品流通事情-日本とタイ 43

ここからは、製薬企業サイドの議論。

1.MR (Medical representatives)が病院と製薬企業を繋ぐ中心的な存在。


2.MRは、対象となる医師(targeted doctors)にアプローチし、担当医薬品に関する情報提供を行う。
タイでも医師に好印象をもってもらうことが重要。
前述の採用医薬品リストに載せるためには、医師の推薦が必要なのだから当然ということ。
日本と少し違う点は、薬剤師に対してもキチンとした情報提供と良好な人間関係を築くことが重要だということ。特に、医薬品の調達プロセスに薬剤師が深く関与していることから、邪魔されなければいいという日本の事情とは異なるところがある。


3.医薬品選定委員会への資料提出に当たって、薬剤師がMRを活用することがある。タイでもこうしたMRの利用は薬剤師の本来の職務、利益相反といったことから、適切でないとされる。実情は、自らの勉強不足をMRに補ってもらうということのようだ。


4.日本のタテマエと異なるのは、MRが価格交渉を行うこと。当然のことながら、会社の指示価格が交渉機軸となる。
後述するように、タイでのdistributorは、日本でいう卸と異なり、配送のみを行うことが主流だ。

医薬品卸業が他の卸業とどう異なるのか、別にまとめてみようと思う。
議論のポイントは、よくいわれるように、「商流」、「物流」が機軸。
それだけなら、何も、薬事法制に医薬品卸業という特別な位置を与える必要はない。
役所流に言えば、衛生規制、安定供給といった面で、流通の合理性だけでは仕切るわけには行かない部分があるからということになる。
衛生規制などの考え方からは、流通合理性からみると、非効率、不合理なことを付け加えざるを得ない。
今の医薬品卸業をみると、どう考えても、これら以外の不合理がコストとしてかかっているとしか思えない。
(これ以降は別稿に譲ります。ただ、この業界の中にも、古きに染まらず、より良い途を具体的に歩み始めている方々がいるように思える。別稿はこの方々と議論を尽くしてからにしたいと考えている。特に、「商流という言葉に隠れた無為」という表現を最近聞くことがあったので。)


5.タイの病院では、病院と製薬企業との間で、上記の契約がなされると、再びMRが活動を始める。医師に対して、採用された薬を使うように働きかける。
ご承知のとおり、日本では、タテマエとしてはこうした活動はやられていないことになっている。
タイの薬剤師は、理の当然として、ジェネリックへの代替を行う権利があるとされる。どの程度代替調剤を行うかは、各病院により異なる。

日本では、代替調剤については、役所が処方箋様式を改めるという形でようやく始まった。
日本の薬剤師の世界では、役所主導でないと、代替調剤すら始めない。
シンポジウムなどに出ると、「厚生労働省はどう考えているのでしょうか。」という質問がよく出る。
そうした質問の前に、自らの職業、職務の内容について、自ら意見を持つべきだとは思わないのだろうか。
代替調剤の処方箋様式が変更されなければ、「ジェネリックに変えると医師に嫌われる」、「ジェネリック自体どういうものかわからない」といった理由で、薬剤師さんたちはジェネリックへの変更を考えたこともないというのが日本。

お医者さんたちと話をすると、医師、薬剤師、看護師などは患者の治療について運命共同体だという。責任と権限を分担する仲間だという趣旨。
薬剤師さんは、その本来の職務が医師の処方のチェック(疑う)にあるにもかかわらず、医師の指示どおりにやれば、責任追及されないからという理由で、薬剤師の本来の職務を果たさない。

代替調剤に関しては、日本よりタイの方が薬剤師の本来の職務内容を果たし、意識も高いといわざるを得ない。


6.医薬品の注文自体(商流)は、MRを通さず、病院と企業が直接行う。これは、Multi(外国企業)、国内企業とも変わりはない。
少数ではあるが、MRを通じて注文が行われることがある。


7.医薬品の配送(物流)にMRが関与することはない。
上記と同様、Multi(海外企業)、国内企業とも同じ。
Multi企業は通常、配送をアウトソースしており、専門の配送業者が配送を行う。


6.と7.を読むと、日本でいう医薬品卸業は存在しない。
日本の場合、商流、物流ともに卸業者が行い、そのいずれかを専門の業者が行うことはない。
タイの場合は、商流は医薬品企業と病院との直接取引。
値段の決まった商品を医薬品専門の物流業者が配送し、集金するという仕組みだ。


8.タイ国内の医薬品企業の中には、配送をin-houseということで自ら行う場合がある。この場合、MRは注文、集金過程に深く関与せざるをえない。
海外の医薬品企業のMRは、医師に対するプロモーション活動に特化しており、商流、物流ともに直接関与することはない。


役所に入って数年したころ、日本の医薬品卸のMSさんがセダンに薬を1箱積んで配送する場面を見た。
どう考えても巨大な配送コストだ。
日本では、今も随時配送といったことが行われ(卸さんだけの責任ではないが)、無用に巨大なコストをかけるといった商習慣があり、何度もいうが、早くこの馬鹿なコストをやめてもらえないものか。

上述のとおり、タイでは、先発品を扱うMulti医薬品企業は配送を外部委託しており、存在としては日本の医薬品卸業者と似た形で医薬品配送業者がある。

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