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医薬品流通事情-日本とタイ 45

医薬品価格問題に移ります。

まず、この点についてのタイの研究員の慨嘆的英文を掲げます。
There are practically no rigid regulations to control price setting of medical or pharmaceutical products in Thailand. Moreover, it has been unclear whether which department in the government has practically taken responsibility over the control of the medical and pharmaceutical products and service.
「タイでは、アリテイにいって、医療用品、医薬品の価格設定についての規制といえるようなものはない。それどころか、政府のどこの部門が所掌し、責任を持つのかさえハッキリしない。」((訳責:筆者)

タイでは、理論的には、この領域に関しては、Ministry of Commerce(商業省)のDepartment of Internal Trade(国内商業局)が所管しているとされる。

*商業省及び国内商業局という訳は、1996年3月京都大学東南アジアセンターの玉田芳史先生の「タイ行政組織史1892~1993年」による。

この書物の玉田先生の「はしがき」を読むと次のような一節がある。
「ところが、タイの行政組織については、日本を含めて外国はいうまでもなく、タイ国内においてすら、そうした全省庁を横断し、しかも比較的長期にわたる変化をあとづけた資料集は皆無なのである。」

筆者もタイの医療、医療費保障制度について同様の「疑い」を持っており、苦笑いもしくは諦めの感情を共有している気分がある。

国内商業局の行政は、医療用品、医薬品よりも通常の生活用品に重きをおいてきたといわれる。
医薬品に関して、この局はチャント仕事をしているとし、いわばアリバイ作りのために製薬企業に対して次のような協力要請をしていると主張している。
1)適切な薬価設定のため、国内商業局に対して必要書類を提出する。
2)製品に明確な価格表示をする。
3)価格表示どおりに製品を販売する。
この要請に応える企業は殆どない。
研究員と実地調査をした際にも、こうした国内商業局の要請に関しての質問には、どの企業も全く無反応だった。
残念なことに、国内商業局は、価格調査、監査といったことについて具体的な行動計画を持たないようで、「要請はした」というタテマエだけで仕事は終わったという雰囲気。

ではこの局が他の役所、公衆衛生省、タイFDAと接触し、協力して事にあたっているかと聞かれれば、そうしたことも一切ないようだ。

公衆衛生省は、健康関連ビジネスについては直接責任があるとされる。
だが、衛生規制という側面のみを重視し、価格などの「ビジネス」については距離を置いている。
であるので、価格規制についてはどのような政策も持ち合わせていないという結果となる。
この役所は、医療費の総量規制という観点からは前述のとおり、様々な試みを行っている。それが結果として製薬企業のビジネスに影響を与えている。

この事情は、日本の厚生労働省のそれとよく似ている。
この役所は、「衛生規制」という一種の呪縛の中にある。
どういうコンテクストになるかというと、「衛生規制が役所の仕事の本質なのだから、産業政策にはかかわらない」。
真におもしろい言葉の運びといえよう。
少し、視点を変えてみよう。
日本では、政府が医薬品の値段を決める。
これを公定薬価制度という。
タイとは違い、売値に政府が直接関与する。
産業政策ということならば、これほどやりやすい環境はない。
新薬にせよ、ジェネリックにせよ、産業政策的な観点からキチンとやれば、企業が育ち、結果として世界的な企業を育てることができるのではないかと思う。
この役所は、薬価というビジネスの世界では急所、肝心をオサエテいるにもかかわらず、それを健全に行使していないのではないか。
かくいう筆者は、言葉が過ぎるタイプで在職中は、医療費コントロールのため、大蔵省さんや医師会さんと、よくいえば合理的な議論を行ってきた。

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