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医薬品流通事情-日本とタイ 49

タイの事情に戻ります。

タイの製薬企業は、製品価格について、直接政府の統制を受けることはない。
彼らの説明では、価格決定ファクターは次のとおり。

  • 1.生産コスト
  • 2.販売管理費
  • 3.販売促進費
  • 4.利益
  • 5.消費税
  • 6.病院への助成金、寄付金

生産コストとあっけらかんといい、日本企業の担当者が手前勝手にいう「開発費」といった美辞麗句がない。
それどころか、極めて率直だ。
特に、病院への寄付。
タイでは、病院に対する寄付などの規制はない。
日本でもほぼ同様といってよい。

タイの病院での実態は、公的な病院でも、医薬品納入落札者は、伝統的に、5~10%の「福祉寄付」をしている。
訪問調査では、全くこうした寄付金を受け取らないところもあったが、10%以上の寄付を求めるところもあった。

この「福祉寄付」のほかに、アカデミックな研究のための助成金がある。

医薬品の価格にこうしたon costが係ることが明言される。
消費者、患者の目からいうと、

  • 何故こうした間接費まで負担しなければならないのか。
  • 医療上の必要性といったことより、裏金を使った方が売れるという構造であるかのように見えることは納得できない。

といった疑問が湧く。
日本の場合では、これほど露骨ではないが、余計な間接費という点では大同小異ではないか。
国民皆保険だ。
こんな余計な間接費まで保険料として払いたいだろうか。

価格設定について、2点、コメントする。
1点目は、価格競争。
タイでは、曲がりなりにも国民全てを対象とする公的な医療費保障制度が成立した。
当然の帰結として、需要の爆発が起こる。
三段論法的に、医療費、特に、医薬品購入額の抑制が始まった。
製薬企業は、今、厳しい価格競争に直面している。
作ればなんとかなったという歴史の中で、タイの医薬品企業は100を超える。
今後、価格競争という面で、かなりの淘汰が進むだろう。
(日本の公定薬価制度は、価格競争がない分、先発、後発あわせて100以上の企業がさしたる問題意識なしに生き残っているともいえる。)

2点目は、大学病院の医薬品価格。
タイの大学病院での医薬品購入価格は、恐るべき安さだ。
いくつかの企業は、コスト割れでも納入している。
理由?

  1. 大学病院は医療機関として隔絶した規模があり、一般の経済原則どおり、大きな購買力がある。
  2. 大学病院は教育機関でもあり、ここで教育される学生は、実際の医療現場で使われる医薬品に大きく影響される。
  3. 多くの私立病院は、大学病院での販売記録があるかどうかを購入の目安としている。
  4. 大学病院で使われている医薬品は、患者にとっても重要で、多くの場合、そのブランドネームを覚えている。
  5. 特に、タイの場合、混雑する大病院で医薬品を購入するより、地元の薬局に行くケースが多く、その場合、覚えたブランドネームの医薬品を購入する。

もっともな理由だと思う。
原理原則に従えば、大学病院での医薬品購入価格は安い。

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