医薬品流通事情-日本とタイ 53
こうした企業のトップにもインタビューした。
例外なく、中国系の方々だ。
社長室に入ると、商売の神様といわれる関羽の像が置かれている。
目端のきいた中国系のentrepreneur、企業家、一旗組が製薬業の世界に入り、作れば売れるというビジネスチャンスを十分につかんだらしい。
抗菌剤というメインマーケットは、サイズが大きいだけに、競争も激しい。
比較的簡単に起業できるのだから、参入も比較的簡単。
「ゾロ品」メーカーがごまんといた日本の医薬品市場も同じようなものだったといってよい。
現在の日本でも、「作れば売れる」という信仰を抱いている経営陣も少なくない。
過去の成功体験はなかなか捨てられないらしい。
タイのこうした古いタイプの企業は、激烈な競争、特許法の適用、GMP規制などで生き残りをかけた戦いへと移行しつつある。
インタビューしたある会社では、古い世代(おばあさまでした)と新しい世代(娘)とでは、企業の将来について、相当大きな隔たりがあった。
古い世代は、競争、特許法、GMPなどについて、半ば理解を拒否し、成功体験の中で、事業を続けられると思いたい。
一方で、新世代は、老朽化した工場の建て直しをしてまでこの事業を継続するかどうか、真剣に悩み、過去の蓄積を無為に費えさせるよりは、思い切って撤退してしまってはどうかと模索している。
ある企業では、安価(驚くほど安いのです)という強みを生かして、東南アジア市場への輸出に活路を見出そうとしている。
インドのジェネリック企業が極度に低い国民所得を背景に驚くほど安い製品を生産し、結果として世界企業に発展して言っている状況に似ている。
将来への悲観的な見通しにもかかわらず、多数の企業が生き残りを続けている。
この点については、セールス、マーケッティングのところであらためて取り上げることになる。
研究員の言葉を借りる。
After all, Thai remains strong Asian style relationship-based business.
These long-term relation ships still play an important role to support their on-going business.
However, as there are so many more challenges coming continuously in the near future, it is likely that only the bigger one of these companies will survive at the end.
アジア式の人間関係モデルというのは、日本も大きく変わらない。
タイでかくも沢山の製薬企業が生き残っているのは、MRベースの人間関係論に立脚しているからだ。
個別の医師がターゲットであり、この標的を囲い込むと数十年という時間単位で商売が保証される。
極端にいえば、医師ごとにセグメントされた市場であり、先発、後発、大、中、小の製薬企業が入り乱れている混沌でできあがっているといってよい。
マーケットの理論を単純に当てはめても市場はわからない。
日本も似たようなものだ。
製薬企業のノウハウとは、突き詰めれば、医師さえつかまえておけば、食いはぐれはないというものではないか。
タイの研究員の言葉にあるように、さはさりながら、医師ごとにセグメントされたマーケットはそんなに長くは続かない(ように祈る)。