医薬品流通事情-日本とタイ 60
モデルⅢ タイでしか売れていないジェネリック企業から病院
日本と同様、ジェネリック企業も、原末の殆どが輸入。
何故、そうなるのか。
タイには、100を超えるジェネリック医薬品製造企業がある。
- 「100を超える」という意味は、例によって、この国の統計はあまり信用できないという事情があり、確定的な数字を掲げられないため。
- タイのジェネリック医薬品工業会への加盟が130社程度。
- 外資系の製薬企業で構成されるPREMA(Pharmaceutical Research & Manufacturers Association)という組織があり、これへの加入メーカーが31社(2008年)。
- タイのある政府統計では、製薬企業数として掲げられているのが123社。
- ともかく、様々な数字があります。
「ある政府統計」を使って話をします。
この統計は、2004~2006年に、政府(Department of Business Development)に報告されたデータを集めたもの。
これによると、最大の売り上げがあったのは、Osothsapha(Tech Heng Yoo)という会社で、2004~2006年の3年間の売り上げを平均すると、153億バーツ。
現在(2009年10月)のレートでは、1バーツが約2.7円。
この会社の1年間の売り上げは、約400億円。
10位の会社(Siam Bheasach Co.,Ltd.)で、6.3億バーツ。同様に円換算すると、約17億円。
このランキングの中で、ほぼ中位にあたる60位の会社(Vesco Pharmaceutical Ltd.Part.)の売り上げが、6400万バーツ。同様に円換算すると、1.7億円。
最下位あたりだと、100万バーツ程度。
タイの医薬品メーカーの売り上げ規模は驚くほど小さい。
こんなに売り上げ高が少なくとも、商品数はかなりある。
ということは、1剤当たりでは、100万円程度の勘定。
某企業の担当者のお話によると、1錠当たりの値段を知ると、「びっくりしますよ」というもの。
前置きが長くなりました。
何が言いたいか。
こういう生産形態だと、原末から一貫生産というわけにはいかない。
一釜にも満たないものを作るのに、すべての化学合成手順をやるのは経済的に不合理。
なので、地元の輸入商を通じて入手する。
ここまで書くと、何故こんな馬鹿なことを放置するのだろうかという疑問を抱かれると思う。
よって集って、同工異曲のジェネリック医薬品を作り、市場に供給する。
第1の不合理は、仕入ロットの小ささ。
1成分につき、例えば、10社が仕入れる。
これをまとめて買うより、遥かに高い価格で調達せざるを得ない。
第1の不合理の帰結は、高い原末仕入れ値。
第2の不合理は、製造ロットの小ささ。
ジェネリック医薬品の製造は、端的にいって、原末に付加剤を加えて剤形にまとめるだけのもの。
世界で1000億円単位の売り上げのものと比較してみよう。
(しつこいようだが、1000億円ともなると、原末は自ら作っても採算が合う。中間搾取(マージン)が少ない分、相当安い。仮に、原末製造をアウトソースするとしても、相当安価で購入できる。第一三共にお邪魔して、原末製造を拝見した。
日本のジェネリック企業も中国あたりから原末を調達しているが、この会社は、原末を逆に中国に輸出している。)
1000億円製造する場合の釜の数はいくつになるのだろうか。剤形など様々な理由でバッジの数が異なる。
仮に、10億円ずつのロットで生産するとしたら、100ロット(釜)必要だ。
この場合、いくつかの不具合、不出来が生じたとしても、生産リスクの許容範囲内として廃棄する自由度が高い。
一剤1000万円程度しか製造しないという場合、通常、一釜しかやらない。唯一のものがダメだった場合、おシャカにするには相当のストレスがかかる。
万が一完全おシャカという場合、製造単価は単純に倍になってしまう。
おシャカにするかわりに、なんとか誤魔化そうとするならば、結果は健康被害にまでいきついてしまうおそれすらある。
第2の不合理の帰結はコスト高、あるいは健康被害。
何度も書くようだが、これはタイだけの問題ではない。日本にも、me-tooジェネリック をいれると100社近くの企業が乱戦を演じている。褒められた話どころか、一刻も早くなんとかしなければならない。
はじっこの方からいうと、1000万円しか売れていない(オーファンなど代替品のないものは別ですが)医薬品の「安定供給」を求めるのはおやめになったらどうだろうか。
- 一人の医師でも使用している限りは生産販売義務があるというのは、少なくとも、保険の論理で運営している制度の方法論ではない。
- ジェネリックの場合、これよりも馬鹿げたことが行われているのではないか。
また、寄り道が長くなりました。
タイのジェネリック企業に戻ります。
一般に、タイのジェネリック企業は、in-house,自前主義で殆どのことが行われている。
原末を輸入してからは、製造、パッケジング、販売、営業はアウトソースされることは少ない。配送まで自前でやるところも少なくなかった。
ただ、タイでも輸送コストがかなり高くなってきており(人の値段は安くても、燃料、輸送機器は徐々に高くなってきている)、配送に関しては、自前主義ではなくなりつつある。
企業インタビューでは、かなりの企業がバンコク地域では自前主義で、それ以外の地域では配送委託という形をとってきているという状況だった。
こうした企業では、MRはほとんど何でもやらなければならない。MRの業務のうち、集金業務は中でも重要な業務と考えられている。
病院の医師とのお付き合いは、タイの医療文化の中で最重要だが、ジェネリック企業のMRにとっては、病院の薬剤師も重要なターゲット。
というのは、いわゆる代替調剤という場合、薬剤師にきちんと接していないといけない。