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DPC 16

病院間のばらつきの例(1)


いただいた資料4ページ。
病院間のばらつきの例(1)
大学病院、がんセンターなどのいわゆる高機能病院の平均在院日数が掲げられている。
通常の A4 印刷だと、「虫眼鏡はどこだ」。

最も平均在院日数が少ないのは、慶応大学17日余り。
最も長いのは、京都大学附属病院で、31日。
これは、平成14年のデータ。
まず、これら大学病院の平均在院日数24.39日に驚く。

何故驚かねばならないか?

手許に平成18年度「DPC 導入の影響評価に関する調査結果及び評価」という資料がある。
中医協(中央社会保険医療協議会)に提出されたものだ。

平成15年の DPC 対象病院の平均在院日数の推移。
平成15年 19.70
平成16年 19.13
平成17年 18.31
平成18年 17.35
平均で1週間も短くなった。

少し我慢していただいて、個別病院について日数を掲げてみる。
最長入院日数を誇っていた京都大学医学部附属病院は、平成18年度は20日。
この病院は、11日も入院日数を縮めた。
ちなみに、この資料の中で、DPC 対象病院として最も短い平均在院日数とされているのは、健康保険組合連合会大阪中央病院。
なんと、10日を切る在院日数。

ともあれ、DPC は平均在院日数を劇的に短縮した。
こうした結果として、一般病床全体の平均在院日数も平成20年4月には18.8日ということになった。
DPC という場合、標準治療手順があり、退院までの手順が定められてこそ可能と思える。
この在院日数短縮を見る限り、関係者は必死になって日数カットに走ったとみられる。

先に診療報酬の計算例を掲げた。
出来高払いの場合、検査、診断、手術などの治療は何度も計上できない。
繰り返し計上できるのは、「入院基本料」。
例えば、現行診療報酬点数表によれば、一般病棟入院基本料(7対1)は1555点、15,550円。
これは、極めて大雑把にいってホテルコストに近いものだ。
まるめ、定額制が導入される以前は、漫然と入院してもらうだけで、一日1万5千円が収入となった(一日1万5千円のホテルは、ビジネスマンにとってあまり安いとはいえないだろう)。

上記の京都大学の例では、出来高払いで、31日 ×15550円=482,050円がホテルコストとして計算できた。
定額制になると、11×15550円=171,050円を縮減したことになる。
この17万円余りの金額が出来高の世界で漫然と支出されてきたのか否かわからない。
というのは、一般に、病院では厳密な意味でのコスト管理は行われていない。
原価計算という概念すらない。
であるので、上記の京都大学の例で「まるめ」から定額制に移って実際どのような収支計算になるのか誰も説明できない。

どうだろうか、支払方式が変わっただけで何故「在院日数」という絶対値まで変わってしまうのか。
変える方も変える方だが、点数表という道具で医療機関を経済的に誘導できると信じ、誘導どおりに現場を変えてしまう役人さんもどうか。

検事の世界で、検事をやめ、民間人(弁護士)になる挨拶状で、「これからは社会正義のために」と書いて失笑をかった例がある。
筆者も失笑をかうことを覚悟していうならば、社会全体の収支バランスを重視するあまり、また、点数表というニンジンの前にひれ伏してしまう医療機関の特性を知りすぎていることから、点数表を用いての「官僚統制」に酔いすぎてはいないだろうか。
こういうことを書くと、過去の自らを省みると、「天につばする」と同様だ。

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