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2010/02/15

博白 09

日本の薬科大学では、伝統的に疾病自体についての教育時間が少ない。

疾病教育の先進国であるアメリカも20~30年前まで、日本と同様であったといわれる。
全米屈指とされるUCSF(University of California San Francisco) 薬学部では医療人たる薬剤師を育てるというアタリマエのことを徹底追及し、医療現場にとって有用な人材としての薬剤師像を確立した。
基礎と称する学内の反対勢力と断固戦い現在の姿を築いた学長は、今でも、「中興の祖」としていろんな機会で語られている。
そのコアの一つが疾病教育。
この大学の生協で薬学部生のための疾病関連の教科書をみてみた。
分厚い。
これを履修するのに何時間かかることやら、といった感慨が浮かぶ。

以下は、当学の客員教授である陳先生からの受け売り。
UCSF薬学部で講義する法学関係の名物教授がいる。
問:薬剤師の調剤業務でミスは許されない。であれば、人為的なミスを排除できる機械、IT技術での調剤の方がましではないか。
学生:――――(沈黙)――――。

こうした問題意識で、次のお題で5分間エッセイを書いてもらった。

「薬剤師が疾病名を知る必要性について述べよ。」

この設問自体、気づかれた方もあると思うが、誘導的。

国立大学病院の薬剤部長クラスでも、疾病名との関連での調剤という概念すらない方もいるらしい。
最近の大病院では、医療事務のIT化が進み、疾病名は薬剤部でも把握できるようになった(それ以前は、処方箋のみをみて調剤というのがアタリマエであった)。

こうなれば、疾病との関連について四の五の御託を並べるのは難しい。
医療事務の流れの中で疾病名を確認できる以上、疾病との関連での調剤ミスは薬剤師にもその責任が来る。
「知らなければ責任を問われない」という時代は終わったのです。

誘導された学生諸君は、さすがに「薬剤師は疾病名を知る必要はない」という、伝統的な回答を書かない。

珍回答から。
「何より医療従事者にとって疾病名を知るというのは最低限のマナーであると思います。」
フーン。
マナーね。

「だだ医師の言う通りに薬を調剤しているだけでは、薬剤師としての品格が失われると思う。」
品格ときましたか。
でも、医師の言う通りに、などというコンテクストは勇敢でよろしい。
表向き、医師と対等といいながら、秘かな医師コンプレックスがあるのではないかというこの業界。
明日を担っていただきたい。

「(患者さんのベッドサイドで)疾病名を知らずに対応するというのは無礼であると思う。」
無礼者!
その意気やよし、と言っておこう。

「もし、薬剤師が疾病名を知らなかったら、ただ医師の処方箋の通りに薬をだすことになり、薬学の専門家ではなく、医師の助手のような存在になってしまい―――。」
そうです。
助手ではありません。
薬剤師は医療チームの一員なのです。

良を差し上げた回答。

「薬剤師が患者さんから「どうしてこの薬を飲まなければならないのか」と聞かれたとき、その患者さんの疾病名や、その疾病がどのようにして起こるのかということを知っていなければ患者さんからの問いに適切に答えられないと思う。」
6年制になり、「臨床薬剤師」が強調され、学生さんの意識が臨床方向に向かっているということの好例。
臨床の現場感覚。
大事にしてあげなければならない。

「薬剤師が疾病名を知らなかった場合、薬剤師は指示された物だけを患者に渡すだけとなってしまう。また、指示された薬が正しいかどうかわからない。負担が増えるのは医師であり、薬剤師は医療のお荷物にしかならない。」
今の学生さんの中には、「お荷物」とまで言い切る者もいます。

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